中国を倒した60年ぶりの金メダル。張本・松島の快挙の裏にある「水谷隼の抗議」とブースター問題の今

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「勝つから待っとけ」

2026年9月24日、愛知・名古屋アジア大会の卓球男子団体決勝で、日本が中国を3-2で破り金メダルを獲得しました。男子団体の金は1966年バンコク大会以来、実に60年ぶり。しかも、この種目でアジア大会の中国に勝ったのは初めてだそうです。

 

2016年のリオ五輪のとき、このブログで「男子卓球がようやく日本で認識される機会を得た」と書きました(水谷の銅や団体のメダル確定などのリオ五輪での男子卓球躍進に寄せて)。あれから10年。まさか地元開催のアジア大会で、中国を正面から倒す日が来るとは。感慨深いものがあります。

 

崖っぷちからの大逆転

決勝の流れはこうでした。

 

試合

日本

中国

スコア

第1試合

松島輝空

王楚欽

2-3 ●

第2試合

張本智和

温瑞博

3-1 ○

第3試合

戸上隼輔

林詩棟

1-3 ●

第4試合

張本智和

王楚欽

3-0 ○

第5試合

松島輝空

温瑞博

3-1 ○

 

1勝2敗、あと1つ落とせば終わりという場面から、張本と松島が連勝しての逆転です。

 

「勝つから待っとけ」

 

圧巻だったのは第4試合。エースの張本が、世界王者クラスの王楚欽をストレートで下しました。そして最終第5試合、第1試合で王楚欽にフルゲームの末に競り負けた19歳の松島が、きっちり気持ちを切り替えて温瑞博を3-1で退けた。この切り替えの強さこそ、今の日本男子の成長そのものだと思います。

 

張本・松島という「ツインエース」

23歳の張本智和と19歳の松島輝空は、ともに世界ランキングで上位(大会時点で松島3位、張本4位)に名を連ねるツインエースです。ひとりの天才に頼るのではなく、エース級が二枚そろい、戸上隼輔のような実力者が脇を固める。岸川聖也監督のもと、ようやく「中国と層で勝負できるチーム」になったと言えるでしょう。

 

かつて日本は卓球王国でした。荻村伊智朗の時代、そして1979年の小野誠治の世界チャンピオン。そこから長い冬の時代が続き、その扉を再び開けたのが水谷隼でした。

 

忘れてはいけない、水谷隼の闘い

若手の躍進を手放しで喜びたいところですが、ここで一つ、どうしても書いておきたいことがあります。彼らの活躍の土台には水谷隼がいた、ということです。

 

リオ五輪のシングルス銅メダル、東京五輪の混合ダブルス金メダル(伊藤美誠と)という結果はもちろんですが、私が特に忘れてはいけないと思うのは、ラバーの「補助剤(ブースター)」問題への抗議です。

 

2008年、ラバーの弾みを良くするスピードグルーが禁止され、ラバーへの後加工は一切禁止になりました。ところがその後、揮発性が低く検査で見つかりにくいブースターが、中国を中心に広く使われるようになります。いわば「用具のドーピング」です。ルールを守る選手ほど損をする状況でした。

 

水谷はロンドン五輪の後、この状況が改善されないなら国際大会をボイコットすると公に訴え、実際に国際大会から距離を置きました。トップ選手がキャリアを賭けてまで声を上げたわけです。当時は「わがまま」という受け止め方もありましたが、フェアな競技環境を求めた、勇気ある行動だったと思います。

 

今の若い選手たちが中国と同じ土俵で戦えているのは、水谷が勝ち続けて日本男子の存在感を示し、同時に「おかしいことはおかしい」と言い続けたからこそ。この金メダルは、水谷が蒔いた種が実を結んだものでもあると私は思っています。

 

補助剤問題は今どうなっているのか

では、補助剤問題は解決したのでしょうか。結論から言うと、「ルール上は禁止、でも取り締まりは追いついていない」状態が続いています。

 

これまでの主な動きをまとめると、次のとおりです。

 

  • 2008年:スピードグルー禁止。ラバーへの後加工も全面禁止に
  • 2013〜2016年:日本卓球協会が、ラバーの反発力に上限を設けて検査する方式をITTF(国際卓球連盟)に提案。しかしITTFはコストなどを理由に採用せず
  • 2018年:検出できない以上、「人体に有害な加工だけ禁止」にする、つまり実質的なブースター解禁案がITTF総会に出されるも、採決前に取り下げ
  • 2019年:ITTFが、試合後にラバーを剥がして厚さやブースター使用を調べる検査の強化を打ち出す

 

それでも、ブースターは揮発性が低いため、スピードグルーのようには検出できません。2025年時点の解説記事でも、取り締まりは実態に追いついておらず、正直に規則を守る選手が不利になる構図は残っていると指摘されています。私が調べた範囲では、2026年の今も決定的な解決策は打ち出されていないようです。

 

つまり、今回の日本男子の金メダルは、そうした「完全にはフェアとは言い切れない環境」の中でつかみ取ったものでもあります。だからこそ価値がありますし、同時に、水谷が投げかけた問題はまだ終わっていないということも覚えておきたいところです。

 

おわりに

張本、松島、戸上、そしてチームの皆さん、本当におめでとうございます。60年分の重みを跳ね返した逆転劇は、日本の卓球史に長く残るはずです。

 

そして、この歓喜の瞬間に、かつてたった一人で世界に異を唱えた水谷隼のことも、少しだけ思い出してもらえたらと思います。次は五輪の団体金。その舞台がフェアな用具ルールのもとで行われることを願っています。



以前水谷に触れた記事を置いておきます。

 


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