電通新入社員の自殺と教授の発言と労基署と

電通 仕事

電通の新入社員の自殺が労災に認定され、大学教授のコメントが炎上し、東京労働局他が臨検にはいり・・・、といろいろなてん末です。

多くの民間企業が、直接関節にお世話になっている広告代理店。その大手、電通。わたしの会社もお世話になっているでしょう。

とはいえ、わたし自身の仕事柄、こういう騒動には素通りできないので、私なりの感想を書いてみたいと思います。

 

 

 

 

1.経緯

 

ご存知ない方のために、経緯をざっくりご紹介しておきます。

2015年4月、東京大学を卒業し、電通に入社した新入社員、高橋まつりさんが、同年12月に自殺で亡くなりました。

労災申請されし、自殺前(9月から10月にかけての1ヵ月)の時間外勤務、いわゆる残業が105時間であり、これにより三田労働基準監督署(以下、労基署)は「仕事量の著しい増加で、残業時間が(前月の2.5倍以上に)増大してうつ病を発症し、自殺に至った」として、労働災害(労災)であると認定しました。

 

これに対し、武蔵野大学の長谷川秀夫教授が「100時間で過労死とは情けない」とニュースサイトにコメントしましたが、これに対し

 

  • 「現場がわかっていない」
  • 「こんな年寄りがいるから、世の中からブラック企業が無くならない」
  • 「だったら、彼女に代わってあんたに働き続けてもらおう」

 

などなどといった反論が殺到。

長谷川教授は謝罪し、先のコメントを削除しました。
武蔵野大学は、長谷川教授のコメントに問題があったとして長谷川氏に処分を検討していると報道されています。

 

 

2.労基署が労災と判断した根拠は?

 

ひと月100時間程度の時間外労働が酷かそうでないかは、人によって感じ方が異なるでしょう。率直に言って、私も「ひと月だけ100時間であれば、死ぬまでのレベルには悪化しないのでは」とも思いました。

それは後で述べることにして(エントリー最後部です)、なぜ、労基署が労災と認定したのでしょうか。

 

厚生労働省は、「過労死ライン」とも呼ばれることのある、精神疾患や脳疾患などの重篤な病気が発症する場合の基準を定めました。
それは、直近1カ月の時間外労働が100時間を超えているか、あるいは直近2~6ヵ月の時間外労働が平均して80時間を超えているか、というもの。
今回の彼女はこれに該当したということでしょう。

 

厚生労働省

 

 

 

長時間労働と精神疾患の関係の考察(厚生労働省)

 

 

厚生労働省が明確に、これ以上長時間労働すれば病気になる確率が高くなるから、気をつけなさい、と言っているわけです。

 

 

 

3.長谷川教授とは

 

 

武蔵野大学グローバルビジネス学科の長谷川秀夫教授。東芝の財務畑、ニトリ役員などを歴任されているそうです。

 

あの問題のあった東芝じゃないですか。

 

あ、いや、長谷川氏をどうのこうの言うつもりは、ここではありません。

でも、考えられるのは、ご自身がまだ若かった頃は死に物狂いで働くことが美徳の時代とだったり、ガムシャラに仕事して初めて何かが生まれるとか、そんな何もなかった時代だったかもしれないという想像は働きます。

東芝の財務畑ということは、あれほどにまで問題になった、数字至上主義の真っ只中にあったか、それを生み出す土壌を作るのにいかほどはかかったとかそんなことも邪推します。

まあ、想像の範囲は超えちゃいけませんが、いずれにしても、自身の発言が影響を及ぼすことを想像できなかったのでしょうか。いや想像してたとして、自身の考え方がここまで否定されるとは想定外だったのかもしれません。

 

 

 

4.高橋さんが置かれた場所は

 

ひと月100時間は酷でしょうか。人や環境によります、きっと。
高橋さんはどうだったんでしょうか。

 

高橋さんは昨年4月に入社し、インターネット広告を担当。試用期間だった9月末まで、残業は「遅くとも午後10時まで」と決められていたそうですが、正社員となった10月以降は業務が大幅に増加し、12月25日に東京都内の社宅から投身自殺しました。労基署は11月上旬にうつ病を発症し、業務をこなすのに多くの労力が必要な状態になっていたと判断しました。決定は9月30日付。

 

「ひと月100時間だけで」とは、長谷川教授以外の人たちも言及していたところですが、試用期間(試用期間が6ヵ月と長いのもなんか気になる。しかも、試用期間に午後10時までは残業させているという、トホホな電通)でさえもかなりの長時間労働をしていたのは明白ですね。

さらには、彼女が残したツイートや、親御さんたちの訴えによると、ハラスメントも受けていた模様です。

 

 

これだと、ひと月100時間以外にも、高橋さんはかなり苦しい状況に置かれていたと思われます。

「死ぬ前に辞めちゃったらよかったのに」
という声も聞きますが、果たして彼女に辞めるという判断ができたでしょうか。
電通という「一流の」企業、あるいはそもそも逃げるという賢明な判断ができない状態に陥っていたのでは、とも想像されます。

 

 

逃げられなかったであろう高橋さんを詳説

 

 

電通は、1991年にも「前科」があります。全く同じような事故を経験しているのです。
それなのに、です。
ていうか、電通は変わらないでしょう。

「鬼十則」という、有名なものがあります。4代目社長、吉田秀雄氏が作ったものだそうです。
Wikipediaより引用させていただきました。

 

 

1.仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
2.仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
3.大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
4.難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
5.取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
6.周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
7.計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
8.自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
9.頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
10.摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

 

 

これらの言葉、教訓は、さほど間違っていないと思います。

が、これらが現実になった場合、あるいは時間が経過したり、社会が変化したり、曲解されたりすると、ブラックに移行する可能性大です。

そういう視点から見れば、これらの言葉は恐怖さえ覚えます。

 

 

 

4.ひと月100時間をどう考えるか

 

私は自殺された高橋さんがかわいそうに思います。
このような環境にいたら、そりゃ自殺しちゃいますよ。

何やってんだ、電通。
何やってんだ、労働行政、ですよ。
それが私の率直で、冷静な考え方です。

ただ、私の経験で、少し書き加えたいことがあります。

 

私がこれまでの社会人生活の中で、最も長時間だった労働だったとき。その頃は、残業がひと月80時間ほどが3~4ヵ月ほど続きました。先に挙げた厚生労働省の、病気になる基準に達しています。

が、あとから振り返るに、この時期が、私の社会人人生の中で最もとは言わないですが、いい意味で満ち足りていた時期でもあったような気がします。

まだヒラ社員だった私は、「終電だから帰っていいよ」と上司から言われて退社してました。そんな毎日。
締切ギリギリという週末には、27時、つまり深夜3時頃まで作業。その後、眠らない街、新橋まで飲みに行って、朝の電車で帰宅するということもありました。

濃密だったなあ。

その後、とあるタイミングで、ぱったり残業がなくなりました。
もちろん、早く帰れるし、肉体的な負担はなくなっていきました。楽になりました。

が、仕事してる感じがしなくなってきました。
自分が、その職場にいる意味があるのか、必要とされているのか、そんなことを考え始めました。
そしたら、残業がなくなったときから1~2ヵ月後に、頭痛とめまい(めまいは持病)が悪化して、自律神経失調症と診断されることになってしまいました。

私の場合は、残業の有無で言えば、残業がなかった方が病気になったのです。
なので、長谷川教授の言葉にも「一理はある」といえなくもないです。

ひと月100時間をどう考えるか、人や環境による、というのはこういう経験があるからです。

 

 

 

5.私なりの結論

 

長々と書いてきましたが、私なりの結論。

 

  • 電通は反省し、改善しなければならない
  • 長谷川教授は反省しなければならない
  • 労働行政は、もっとしっかりと真剣に、長時間労働の削減に取り組み、動かなければならない(今回の臨検はよかった、というか、そもそもいつもそうあるべき)

 

先に挙げたように、私は病気しました。
その経験からも、長時間労働は自分の職場からなくしていきたい。なくさなければならない。
私自身も、この事件をあらためて胸に刻みたいと思います。

 

 

 

【追記】2019/12/05

2017年、有罪判決を受けていながら電通はふたたび労基署から是正勧告。

 

 

 

 

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